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歓迎会とは名ばかりで、皆要するに飲んで騒ぎたいだけだ。
主役であるはずのロイは一時間もしないうちに宴の中心から外れていた。
ロイは自分のグラスを持ってそっと席を立ち、一人輪から離れて座っているエドワードに歩み寄った。
「隣、よろしいですか」
「ん?ああ、少佐か。別に座りたきゃ勝手にどーぞ」
酒を飲めないエドワードにとって宴会とは専ら食事の場であるらしい。カウンターにはパンの入った藤籠といくつかの料理の皿が並んでいた。
「…質問しても構いませんか?」
興味があった。
取り入ろうという打算がないとは言わないけれど。
そんなものを意識せずにすむ位には、エドワードは異質だったから。
―――殺伐とした、あの。
ただただ、どす黒いものがとぐろを巻いているような、あの。
あの『軍』の中心にいるはずなのに。
どうして―――
「答えられることならな」
エドワードの一挙一動を見逃すまいと、ロイは目を凝らした。
「15歳だと聞きました。随分お若いんですね」
「そりゃアンタよりはね」
「いつ、なぜ軍に入ったんです?」
「…なんでそんなことが知りたいんだよ」
「―――純粋に、好奇心からですが。不快に思われたなら謝ります」
「アンタの喋り方、何かムカつく」
エドワードは唇を尖らせた。
拗ねたようなその顔には、やはり厳めしい軍服がつり合っていない。
「残念ながら、癖でして」
エドワードはつまらなそうに鼻を鳴らすと鳥の唐揚げに齧り付く。
「軍人になったのは12の時だよ。目的とか、そんなのは別に無かった。生きていくために必要なだけの金がもらえて、母さんや弟や幼馴染みを守れればそれでよかったから軍に入った、それだけだ。―――ひとりで出来ることなんて高が知れてるのにな」
言葉を切り、エドワードは口元を歪めた。
自らを嘲るような、懐かしんでいるような、判断に苦しむ不思議な表情。
触れることすら躊躇われるような何かがそこにあるようだった。
「…それで、どういった経緯で大佐の地位まで?」
12で軍に入隊するのも異例だが、そも三年で大佐になることなど可能なのだろうか。
「それも好奇心ってやつからの質問?」
エドワードの顔に先程の表情は既に無い。
けれどそれは表に現れていないというだけかもしれない、とロイは思いながら会話を続ける。
「ええ。教えてください」
「ムカつくやつを皆殺しにしてったらいつの間にか」
「は?」
「ってのは冗談だけど。ま、単純に親の七光りってやつだよ。光のホーエンハイムって知ってるか?」
「……」
知っているも何もない。
『光のホーエンハイム』
最強と恐れられ天才と讃えられた至上の国家錬金術師。
若くして大将軍にまで上り詰め、次期大総統とまで噂されながらある日突然失踪した謎の人物。
自殺説、暗殺説、亡命説、隠棲説、病死説…今だって話題に困ることはない。
「貴方が…ホーエンハイム将軍の…?」
「息子だな。最悪なことに」
「しかし名字が…」
「籍は入れてなかったんだ。なのに軍のお偉方は何故か皆知ってるけどな」
「そんな訳だから、望むと望まざるとに関わらずとんとん拍子に…とまではいかねぇけど。ま、そんな感じだ。納得行ったか?」
「は…いえ……」
突拍子もない話だった。
十人に話したとして、一体何人が信じるか。
御伽話、英雄譚。突拍子もないことが前提の物語の主人公に勝るとも劣らない経歴だ。
「いやー、試験受けに行って驚いたぜ。あのクソ親父がまさかそんな有名人だったとはな」
「試験?」
「ああ、国家錬金術師資格試験」
「……」
この上国家錬金術師か。
「銘は鋼…って、言ってなかったっけ?」
「…聞いていません」
15歳。大佐。東方司令部司令官。伝説の錬金術師の息子。国家錬金術師。
酔うほど飲んでいないのに、頭がくらくらしてきた。
「どうした?酔ったのか?」
額を押さえ込むロイをエドワードが覗き込む。
「いえ…」
「家まで送ってやろうか?」
「結構です」
上官に送らせる部下がどこにいる。
だが、エドワードはそういった常識にかなり頓着しない性格であるらしい。
「遠慮すんなって。俺も飯食い終わったし」
ロイの辞退にもお構いなしにエドワードが立ち上がる。
「あれ、大佐ぁ、もう帰るんですかー?」
すっかり出来上がっているハボックの言葉にエドワードは手を挙げて応える。
「お送りします」
すかさず立ち上がったのはホークアイ。
「いや、今日はマスタング少佐に送ってもらうから」
何時の間にやら役割が逆になっている。
ホークアイは鋭い目でロイを見た。
品定めされているような視線とかち合わぬよう、ロイは反射的にあらぬ虚空に見入る振りをしてしまった。
「くれぐれもよろしくお願いします」
何故自分は睨まれるのだろう。
背中に冷たいものを感じつつ、ロイはドアの前で待つエドワードの所へ駆け寄った。
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