*手紙* 52/365

携帯を開く。閉じる。開く。閉じる。

「黒子っち成分が切れる…」

モデル業やら何やらで、二日も黒子に会っていない。メールの返信もなしのつぶてだ。

別にやりたいことはない。顔を見て、他愛ない話をして、時間を共有したいだけだ。

「はぁ…こんなことなら写メでもいいから撮っとけばよかったなぁ…」

後悔先に立たず、と言ってしまうと語弊がある。何度か誘ったことがあるのだが、その度に何のかんのと断られてしまったのだ。

隠し撮りは黄瀬の主義に反するし、何より黒子の目線を捉えられない。

「こうなったら…」

黄瀬はおもむろに身を起こすと、助っ人の元に駆け寄った。

「ねータケさん!次のオフいつ?」

 

「ね、一枚だけ!一枚だけでいいっスから!」

「嫌です」

「ほら、カメラマンさんも困ってるっスよ!」

「勝手に連れてきたのは黄瀬君です」

頭を下げて懇願口調の黄瀬に対して、黒子はにべもない。が、分が悪いのは黒子の方だった。

「黒子っち…男らしくないっス。約束は約束っスよ」

「…確かにそうですが」

三本勝負で負けたら言うことをきく。黄瀬がそんな勝負を吹っかけてくるのは常のことだったから、今回もアイスやジュースを賭けた他愛ないものだと油断したのだ。

黄瀬が電話をかけてすぐ、厳ついカメラを提げた若い男がやってきて、念入りにお膳立てされていたことに気付く始末で。

「分かりました。約束ですから」

黒子の溜息に重ねて黄瀬が大きくガッツポーズする。

「やったー!じゃ、タケさんよろしく!」

馴染みのカメラマンに合図して、黄瀬は黒子の隣に回る。

「ほら、黒子っちも笑って!」

うまく笑えたかどうかは分からなかったけれど、プロのカメラマンの突発撮影会はすぐに終了した。

 

「えへへー」

「嬉しそうですね、黄瀬君…」

「これで会えない時も寂しくないしー。ほら、よく撮れてるっスよ?」

現像された写真は、約束通り一枚だけ。黄瀬に得意げに差し出されたそれから、黒子は意図的に目線を逸らした。

「一生大事にするっス!」

押しきられて渋々写ったものだったが、黄瀬がこんなに嬉しそうなら――こんな笑顔でこんな台詞を叫ばれたら、許さない訳にもいかない。

「写真嫌いを克服するいいチャンス、ですかね」

「やっぱり、嫌いだったんスね?」

丁寧に写真をしまっている黄瀬の隣へ腰を下ろし、黒子は曖昧に頷いた。

「ボクは自分のことがあまり好きじゃないんです。だから、ボクが写った写真も苦手です」

写真は鏡よりも辛い。フィルムに一度固定された像は、逃れようも無く万人に示される。

「でも、黄瀬君が横にいてくれるようになって、ボクは変わったと思います」

黄瀬は何度も何度も、名前を呼んでくれて、笑ってくれて、その度に黒子へ言葉をくれた。ここにいてもいいし、ここにいてほしいのだと。

ソレについても、と黒子は黄瀬の手の中にある封筒を指差す。

「自分で見る訳じゃないので、平気ですから」

「…強がりはダメっスよ」

黄瀬は浅く眉を立てて黒子の顔を覗き込んだ。持っていた封筒を、黒子の胸元に突きつける。

「この写真は黒子っちにあげるっス」

「え、でも…」

「いいから!」

勢いに押されて封筒を受け取った黒子に、黄瀬は続けて言った。

「その代わり欲しいものがあるんだけど、いいっスか?」

 

ステップを踏みながら歩く黄瀬は、しきりに手の中の新しい封筒を見ては口元を緩めていた。

封筒は片手で包めそうな程小さく、その中には四つ折りされたメモ用紙が入っている。

丁寧に刻まれた、『好きです』の文字——写真の代わりの、黒子の欠片。

「これ、写真より恥ずかしいです」とぼやいた黒子は先程から目を合わせてくれないが、黄瀬は笑顔で封筒を大切にポケットにしまった。

 

君からもらった、大事な大事な、ラブレター。

とても小さな、素敵な手紙。

end.


うちの黒子っちは色々ネガティブです。