04. 全てを捨てるというわけにはいかないんだ
———嵌められた。そう気付いたときにはもう遅かった。
この戦場での敗色は決定的で、退くのが間に合わなかった兵や殿を務める隊に多くの死者が出ると分かっていても、防衛線を大きく後退させ部隊を立て直さなければならなかった。
「陛下!私の部隊が敵を食い止めます、一刻も早く撤退なさって下さい!」
「キラ!?」
天幕に飛び込んできたキラの有様を見て、アスランは言葉を失くした。
元は純白だった騎士服を血と泥で斑に染めたキラは、青褪めた顔で報告が終わるとすぐさま出て行こうとする。椅子を蹴って立ち上がったアスランはギリギリでキラの腕を捕まえた。
「つっ…!」
傷に響いたのか小さく息を詰めたキラに顔を歪め、一番近くにある椅子まで引っ張っていく。
「腕だけでも止血をしていけ…!」
無理矢理キラを椅子に座らせ、包帯を手に取ったアスランに今度はキラが顔色を変える。
「陛下っ、止血など自分で出来ますから!」
「いいから、腕を出せ!」
アスランの強い口調にキラは黙り込み、しばし衣擦れの音だけが天幕内に響く。
しかしその静けさは、外の怒号や軍馬の嘶き、剣戟の激しさを二人に強調するだけで。
止血はすぐに終わった。
血で汚れた指を布で拭おうとしたアスランは、しかしそれを思い止まり眼前の身体を抱き締める。
「アスッ…陛下!?」
血が染みてゆく衣服も気にせず、アスランは腕の中のキラに告げる。
「キラ。お前を本当に愛している」
だが、とアスランは血を吐くような声で続く言葉を搾り出した。
「俺には国を、民を導くという義務と責任がある…!」
最強の騎士であるキラを死地に残し、自分は落ち延びる。
これが今、最も正しい選択なのだ。たとえ、どれほど心が望まぬものであっても。
キラも痛ましげな表情で頷き、アスランの背に添えた手へ僅かに力を込めた。
「…理解しています、王よ」
長剣を携え出口へ向かうキラの背中へ、アスランは最後の言葉を掛ける。
「死ぬな、キラ。必ず生きて帰って来い」
仕切り幕を捲る手を止め、キラは少しだけ振り返る。
微笑と共に、短く応えた。
「イエス、マイロード」
王の台詞でお題だけどキラに喋らせる台詞の方が重要。
次で完結です!が、上手くオチたりはしな(ry)