少女と見紛うような風貌と無骨な大太刀との組み合わせは軍内部でも浮いていたが、そのからりとした性格と裏のない物言いで、エドワードはたちまち自分の居場所を獲得していった。
加えて高い感知能力と、刀一本で妖を切り伏せる優れた剣技。
エドワードが江戸に来て丁度一月が経つ頃には、エドワードは江戸支部にとって、既になくてはならない存在になっていた。

「あー…面倒臭ぇ」

ある日、ハボックと昼番最後の巡回を終えようとしていたエドワードは唐突に顔をしかめた。

「どうしたんだ?エド」

「……でかい奴、来るぜ」

頭をくしゃりと掻き上げ、そう言ったときにはもうエドワードは走り出していた。
自身にしか理解できないぴりぴりという感触に従い、何度か角を曲がる。

(もう日が暮れるっていうのにっ…)

「何処行くんだエド、って…おわあぁぁ!」

エドワードが一瞬前に消えた角を曲がったハボックは、思わずたたらを踏んだ。

そこにいたのは虎の身体に長い蛇の尾を持った、『竜虎』と呼ばれる妖。
ハボック一人だったらとても手を出せない、その凶暴な異形の周囲には低級の妖『狗』が五頭、牙を剥きこちらを威嚇していた。
辺りにいた町人はとっくに逃げ去り、全ての家屋の戸はぴっちりと閉ざされている。
暮れ時の江戸とも思えぬ嫌な静寂がハボック達を包み込む中、エドワードが口を開いた。
その横顔は、ハボックが見たことがない位険しい。

「少尉」

「エ、エド?」

「詰め所行って中尉か、居なかったら誰か弓出来る奴呼んで来て。こいつ等は――俺が抑える」

抑えると言っても、最強クラスの竜虎と集団戦を仕掛けてくる狗が相手である。エドワード一人で何分持つか。
しかし、銘持ちでもないハボックが残ったところで共倒れになるのは明らかだ。

「っ―――分かった。持ち堪えろよ、エド!」

その言葉にエドワードは太刀の鯉口を切ることで答え、ハボックは一刻も早く助勢を得る為駆け出した。
足音を聞きながらちらりと茜に色付いた空を見、エドワードはすらりと刀を抜き放つ。

「さあ――来いよ、化け物。俺が相手してやるぜ」




「はぁ、はぁ、はっ…」

エドワードは荒い息の下で愛刀を握り直した。
どれほど時間が経ったのかを気にする隙も、首筋を伝う汗を拭う余裕も無い。

「はああああ!」

大太刀を左中段に構え、エドワードは何度目かの突撃を開始した。
数が多い四つ足の異形相手の場合、受け身でいては追い込まれてしまうからだ。
三頭に減った狗の体当たりを躱し、一尺もの牙を突き立てようとしてくる竜虎に肉薄する。
凶悪なフォルムのそれを刀で弾き、鋭い爪を潜って竜虎の背後にエドワードが回り込もうとしたそのとき、再度狗達が飛び掛ってきた。
更に、狗の間を縫って竜虎の尾が宙を走る。

「っつう…!」

二の腕を切り裂かれ、エドワードは呻いた。
青い羽織にじんわりと血が滲む。そしてその傷以外にも、羽織のあちこちは赤く染まっていた。

「くそっ…」

一旦妖達の囲みを離脱し、エドワードは奥歯を噛んだ。
傷ついた腕では重い野太刀に十分なスピードを乗せられない。体力も予想以上に削られてしまった。

どう動くべきか。
どれだけ動けるか。
焦りが思考を拡散させる。

エドワードの劣勢を感じ取ったのか、狗達が攻撃のため四肢に力を込め始めた。竜虎も悠然と尾を構える。
それを受け、エドワードが冷たくなった手で刀を構えようとした、その時。

「下がれ、鋼の!!」

自然に人を従える力を内包した、鋭い声。

「大佐!?」

振り返ったエドワードの視界の端で火花が音を立て、今にも飛び掛かろうとしていた狗達がまとめて燃え上がる。
狗を失った竜虎は焔を追うように射かけられた矢を避けて後退した。

「大丈夫か、エド!!」

「ああ、うん…」

ハボックへの返事もおざなりに、エドワードは素早く周囲を見渡した。
日は大分沈みかかり、すでに夕陽を肌で感じることはできなくなっている。
一方、エドワードに代わる形で前に立ったロイと竜虎の戦いは平衡状態に陥っていた。
竜虎はロイが焔を放とうとすると器用に避け、更にはロイを警戒すべき相手だと理解したのか不用意に近づいてはこない。
その状況に、エドワードは気付かれないよう唇を噛んだ。

(時間がない)

迷っている暇はないと、そう判断するやいなやエドワードはハボックの腕を振り解き、ロイに向かって地を蹴った。
怪我の痛みは無視し、右腕一本で刀を握って駆ける。

「エド!?」

「っ大佐、動くな!」

背後のエドワードの勢いを感じたのかロイは反射的に従い、その背中を踏み台に、エドワードは更に高く跳んだ。

「鋼の!?」

夕焼け空。一番星。瓦屋根。
天地が逆になった広い視界の中で自分を見上げるロイと、獲物を定め直した竜虎が尾をくねらすのが見えた。
心臓を狙って放たれた一撃を、エドワードは太刀の物打ちで引っ掛けるようにして逸らす。
重い反動には無理をせずに太刀を手離し、代わりに脇差しを抜き放った。

「く た ば れぇぇ!!」

追い詰められた龍虎が大きく口を開け―――
目を見開いた龍虎の眉間に、エドワードは深々と刀を突き刺した。




戦闘シーンの緊迫感はどうやったら出せるのか…(逃)

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