「鋼の!!」

ロイやハボックが駆け寄ってくるのを横目に見ながら、エドワードは脇差を鞘に収めた。
この世に存在する力を失いさらさらと崩れていく竜虎の身体から飛び降り、先程手放した太刀も拾い上げる。

「すげぇよエド!!」

「…ええ、そうだっけ…?」

「エド?」

興奮した声を上げるハボックとは対照的に、ロイはどこか気がそぞろなエドワードの様子に眉をひそめた。
ハボックの称賛も耳に届いていないらしいエドワードは、焦ったように空を見上げる。
そして、脱兎のごとく駆け出した。

「どこに行く、鋼の!」

「エド!?」

訳が解らず戸惑うハボックの脇を抜き、ロイはみるみる小さくなるエドワードの後ろ姿を追った。

一本通りを違えれば、そこはありふれた江戸の町並みだった。
魚を笊に積み声を張り上げる魚売りや掛蕎麦屋台などが行き来する大通りをエドワードは飛ぶように駆けて行く。
ともすれば人混みに埋もれそうになるエドワードをロイは必死で追い駆けた。

「鋼の、待て!」

ロイの声にエドワードは振り返りもしない。それどころか人波を掻き分け、突き飛ばし、形振り構わず急いでいるようである。
エドワードが辿り着いたのは日本橋。無数の町屋が立ち並び、どこよりも入り組んだ細い路地に二人分の足音が不規則に刻まれる。

「っ放せ!」

そこでようやく、ロイはエドワードを捕まえた。

「鋼の!その怪我でどこに行くというんだ!」

陣羽織を赤と青の斑に染め痛みに息を荒げながらも、エドワードはロイの腕を振り払おうと藻掻く。その歪められた両瞳には濃い焦燥の色があった。

「いいから放せ!時間が無い!」

「時間?っ!」

ロイが訝しんだ隙にエドワードは強引に腕を抜き去り、すぐ後ろの引き戸に取り付いた。そこがエドワードの目的地らしい。
と、小さく何かが弾けるような音。ロイにはそれが結界を通過する際に生じる音だと判った。

(結界?術が使えたのか?)

エドワードの武器といえば太刀であり、呪術を使う姿は一度も見たことが無かったため、エドワードは術を使えないのだろうと思っていた。
そんなことを考えながら、ロイは閉まりかけた戸の隙間に身を滑り込ませる。

「っテメ…!」

エドワードがロイを睨み付け、
ロイが真正面からエドワードを見つめ、
後ろ手に戸を閉めた音が鳴った、その時。

太陽が、音も無く完全に地面に隠れ。

「あっ…!」

「っ…!?」


何かが解けるように、エドワードの纏う色が一瞬で変貌する。
昼の漆黒から―――夜の黄金に。
目を見張るロイの前で、エドワードは観念したようにその金の瞳を閉じた。

「兄さん?…その人、誰?」

屏風の向こうから少女のように澄んだ声が聞こえた。土間に備え付けの流し場から少年が立ち上がる。肩から零れたその髪もまた、星月の金。

(兄さん、ということは弟か)

自身が光を放っているかのような二人を見比べながら、ロイは乾いた唇を湿らせた。

「ロイ・マスタングだ。お邪魔するよ」




今回短い分、次は長くなる予感…(汗)